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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
はだかった女の胸の上に、男の毛脛がのっかって、巨大な乳房をもみくちゃにしていたが、女は感付いていないようであり、男のムキ出された腹の上へ、女の手がのびて蠢めいていたが、男は一向気がつかず、白痴のように口を開け、ちっとでも清潔の空気があったら、吸ってやろうとでも云いたげに、ハーハー呼吸をついていた。
と、不意に荒筵の奥から、男の怒鳴る声がした。
「贄持って来オ――ッ、贄持って来オ――ッ」
金地院範覚の声であった。
「オ――」
と、こっちから一人が答え、屠者らしい男が立ち上がった。
それから、ヒョロヒョロした歩き方で、一匹の犬の側へ行ったが、やにわに頸がみを掴まえると、荒筵の方へ引きずって行った。
自分の運命を知ったと見え、犬は行くまいとして縛られている四足をしばられたままで、顫わせて、哀願するように悲鳴したが、噛みつく元気はなくなっていた。
筵の向こうへ犬を抛り込み、
「範覚殿、贄あげました」
云いすてると、その男は引っかえして来て、そこに寝ていた娘の横へ、へたばるように坐り込んだ。
すると、娘は憐れっぽく云った。
「可哀そうに、あの犬も殺されるのね。……心の臓をえぐられるか、肝の臓をくりぬかれるかして」