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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
その松明の光に照らされ、切ってある炉の脇に坐りながら、乳がないので腹がすいて、泣き立てる嬰児を搖すりながら、彼女はうたっているのであった。
全山を圧して猿の声が、気味わるく聞こえて来る。
泣きそ、な泣きそ、和子よ和子よ、泣けばお山で猿も啼く。
でも嬰児は泣きやまなかった。
(どこかでお乳を貰わなければ)
窓から見れば谷を越した向こうに、どうやら家があるらしく、燈火の光が明るく見えた。
(あそこへ行ってお乳いただこう)
そう彼女は決心した。
彼女はやおら立ち上がった。
こんな厄介な泣く嬰児などを、あんなことから手に入れて、迷惑を感じているべきだのに、彼女は全く反対であった。
幸福を感じているのであった。
(わたしの子よ、わたしの子よ)
こんなように感じて幸福なのであった。
これまでの彼女の子供といえば、泣きもしなければ笑いもしない、生きた紐のような蝮ばかりであった。
それでも彼女はその蝮が、おとなしく懐中にトグロを巻いていたり、時々顔を出して自分を眺めたり、焔のような舌を吐くのを見ては、可愛いものに思われてならなかった。
それだのに今はどうだろう、こんなにも熱心に一生懸命に泣いたり、そうしていずれ腹がくちたら、とても可愛らしく笑ってくれるであろうところの、ホンモノの人間の嬰児が、自分のものになったのであった。