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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

(袈裟太郎きゃつ頭がいいわい)

袈裟太郎の真意を早くも察して、小次郎はそう思った。

(このひとのいい右衛門を、殺すことはさて置いて、怪我をさせても気の毒だ。といっていつまでもあんな塩梅に、鉞をブン廻しているうちには、自分の脛ぐらいたたっ切るだろう。……だからどうともして止めなけりゃアならない。……頑固爺の鉞の舞い、こいつをやめさせる人といえば、桂子様以外にはないのだからなあ)

右衛門が身近く逼っていた。

鉞が頭上で揺れている。

右衛門の呼吸づかいは苦しそうであった。

数年の間に右衛門は、眼に見えて年を取ったのである。

その上二十貫の大鉞を、二度がところ空振りさせられた。

気があせり呼吸がはずむのであった。

それに右衛門は気おくれしてもいた。

女たらしの柔弱者と、そう思っていた小次郎が、何んと素晴らしい武道の達人で、しかも大胆不敵であることか!

思い違い!

見損ない!

で、右衛門は気おくれしていた。

それだけに彼は自分自身に対して、おそろしく腹を立てていた。

小次郎に対する憎しみと、自分に対する怒りとで、彼はアガッテいるのであった。

「右衛門や」

と小次郎は云った。