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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

金地院範覚がいるからである。

気絶から蘇生した範覚は、頓に気抜けして、白痴のようになった。

姥の調伏を助けようともせず、贄釜の音をあげさせようと、指揮しようともしなかった。

洞窟の隅から暗いところへ洞壁を背にして坐り込み、金剛杖を膝にのせ、ボンヤリ乎としているのであった。

(さっきの女! ……裸体! ……ワ――ッ)

と、こんなことばかり考えているのであった。

鬼火の姥は気が気でなかった、

満願の時刻が逼って来るのに、贄釜が音を上げようともしない。

「受け入れられない」証拠だからである。

今、姥は壇上の人形を取った。

紙で刻んだ人形である。

ごまの煙りの中へ投げ込んだ。

煙りに包まれ、火気に揚げられ、人形は白い蛾のように、天井の方へ舞い上がった。

やがて贄釜の真上まで行った。

真ッ逆さまに落ちなければならない!

が、人形はヒラヒラ揺れて、横へ流れて床の上へ落ちた。

石の床は滴で濡れていた。

その滴に意気地なくぬれて、ベットリと床へ、へばりついてしまった。

「受け入れられない」証拠である。

桂子が同じこの裏山で、血書き写経の行をして、こっちの行と対抗していることは、鬼火の姥も知っていた。