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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
「この姉が許すによって、小次郎と夫婦になるがよいよ。……愛し合って末永くお添い!」
「お姉様!」
と浮藻は咽んだ。
今も彼女は夢を見ているような、そんな気持ちでいるのであった。
小次郎と引き放されて館へ入れられ、綺麗な部屋の衾の中へ入れられ、
「陸奥守様のお伽をするのじゃ」
と、そう侍女に云いきかされた。
(もしそんなことになろうものなら、舌かみ切って死んでやろう)と、心ひそかに覚悟していた。
と、そこへ意外にも、金地院範覚が現われて、自分をいましめ猿轡をかい、地袋の中へ入れた。
それから連れ出されてここへ来た。
その範覚は袈裟太郎だという。
夢を見ているような気持ちであった。
「可哀そうだが旅へおいで」
桂子は二人へ訓すように云った。
「世の荒波に揉まれ揉まれて、立派な人間になっておくれ。……わたしも、わたしも、一人で寂しく、でも清浄潔斎して、やはりお前たちに負けないような、立派な人間になるからねえ」
「お姉様!」
と浮藻は叫んだ。
「旅へなど! ……何んで! ……お姉様と別れて! ……いえいえ妾は! 何んで旅へなど!」
姉に許されて恋しい小次郎と、夫婦になるということは、浮藻にとって、例えようもない、嬉しいことには相違なかったが、この乱れた世に二人ばかりで、当てのない旅へ出るということは、辛い悲しいことであった。