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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

尺あまり地上へ裾を引き、月光に全身を薄蒼く染め、煙りの棒のように揺れ顫えながら、玄関の方へ動いて行く姿が、悪夢のように見えるばかりであつた。

この前庭には人気がなく、遠くで鳴らしている撃柝の音が、間遠くに聞こえるばかりであった。

城壁の角を玄関の方へ、生ける白布は曲がろうとして、二人の方へ顔を向けた。

一本の白布に過ぎないのであるから、もちろん顔も手足もなかった。

が、顔のあるべきてっぺん所から、一尺ばかり下がった辺――だからそこは頸でなければならない。――その辺から白布が背後の方へ捻じれて、二人に向かって上下へ揺れた。

で、あたかも顔をねじ向けて、挨拶したように見えたのである。

二人の家来は辞儀を返した。

城内の廊下を生ける白布が、奥の方へ歩いていた。

足のない白布ではあったけれど、二尺あまり裾を床へ引いて、膝のある所と思われる辺へ、蜒りをつくり襞をつくり、しずしずと先へ辷って行く様子は、白衣を頭からスッポリとかずいた、上が歩いて行くのと変わりがなかった。

廊下はぼっと明るかった。

曲がり角曲がり角に金網で葢うた、巨大な燭台が置いてあって、その光が遠くまで届くからであった。