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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

老婆の答えはそれだけであった。

彼女も小次郎と同じように、城内を自由に歩くことも、人と自由に話すことも、許されていなかった。

で、彼女はこの夜まで、自分の部屋にだけに住んでいた。

そこへさっきのあらくれた男が、二人突然はいって来て、彼女を縛り担架にのせた。

活躰解剖の恐ろしい噂も、彼女は聞かされて聞いていた。

(いよいよそれに!)

と彼女は思った。

抗うことの愚かしさ、許しを乞うことの無益さを、その瞬間から彼女は悟った。

ほとんど気死の状態で、彼女は廊下を揺られて来た。

(小次郎様は? 小次郎様は?)

その間も彼女の思っていることは、恋人小次郎のことばかりであった。

窓ごしにではあったけれど、その小次郎の顔を眼に入れた時の、彼女の心持ちというものは※(感嘆符疑問符、1-8-78)

喜びでもあれば悲しみでもあった。

台の上で白布に蔽われ、今浮藻は眼を閉じている。

瞼の下の頬のあたりが、涙ですっかり浸されている。

睫毛の厚い切れの長い、でも泣いたため膨れぼったい瞼が、やがて痙攣して眼があいた。

「あッ」

足もとの方を眺めた時、彼女は思わず声を上げた。

巾三尺長さ六尺、そういう立て板に一人の男が、革紐で結いつけられていた。