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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

(可憐と思うてくださるそうな)

そのお方がそうなのである。

幸福と感謝と喜悦とで、彼女の心は充たされていた。

(もうあのお方はお休みであろうか、それともご同伴の方々と、お話をしておいでであろうか?)

逢いたい、話したい、見たいと思った。

几帳を横にし火桶を前にし、つれづれに眺めていた源氏絵巻を、ほぐしたままでかいやって、呉服はうっとりと考え込んだ。

雪に折れるらしい竹の音が近い庭先から聞こえて来るばかりで、あたりはひっそりと静かであった。

話し相手に顔を出した、二人ばかりの腰元もあったが、彼女は追いやったことであった。

恋の想いにふけるには、一人が一番よいからである。

(でも余りに気高すぎる)

ふと彼女はいつも思うことを、急にこの時思い出した。

(尋常の山伏などとは思われない)

熊野詣での山伏や、吉野参りの道者などが、この十津川へは絶えず入り込んで来た。

十津川は山伏や行者や修験者の、往来の中軸にあたっていた。

それでこの郷の人々は、それらの人々を接待することを、習慣としているほどであって、それらの人々には慣れきってい、それらの人々の修行の大小や、人物の高下を見抜くことにも、ことごとく勝れているのであった。