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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
火桶ばかりでは暖かさが足りぬと、部屋の一所に切ってある炉で、さっきから炭火を焚いていたが、兵衛はさらに炭を加えた。
「世上この頃の噂でござるが……」
と、兵衛は真面目な口調で云った。
「赤坂城を落ちさせられた大塔宮様には、山伏に姿をおやつしになり、熊野方面へお入りとのこと、おいたわしいことに存じまするな」
一座にわかに森然となった。
上座に端然と坐ったまま、兵衛の話に微笑を含みながら、耳を傾けていた若い先達も、その微笑を顔から消し、爾余の八人の山伏たちは、互いにそっと眼を見合わせた。
が、主人の戸野兵衛は、そういう変化などには気がつかないとみえ、
「神武天皇様ご東征の際、熊野において八咫烏が道案内をいたしまして以来、熊野地方も宮方でござって、王事に尽くしたものでございまするが、現在の熊野の別当職、定遍僧都は遺憾ながら無二の武家方でございますれば、大塔宮様熊野におわすと知らば、よもや見遁がしはいたしますまい……」
「ははあ」
とこの時平賀坊こと、平賀三郎が漠然とした声で、何んとなく曖昧にそう云った。
「熊野三山の別当定遍、そのように武家方でござるかな」
「無二の武家方にございます。