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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
「……が、御方は宮家だからのう」
ややあって兄の左源太が、心弱そうに呟くように云った。
「……大逆の身になるのだからのう」
「が、先刻の顔を包んだ武士が、思い切って出世をしようと思ったら、思い切った仕事をやらねばと……」
「云ったのう、きゃつ云った。……それにしてもきゃつ何者であろう?」
「見覚えあるように思いましたが……」
「おお、お前もそうだったか、わしも見覚えあるように思った。……それにあの男にああいわれたので、わしとしては心を迷わしたのだが……」
この時背後から呼ぶ声が聞こえた。
兄弟の者は振り返った。
顔を包み笠をかぶった、先刻の武士が塵埃を蹴立て、陽炎立つ道を走って来ていた。
「わしじゃ、大弥太じゃ、待ったり待ったり!」
それは戸野大弥太であった。
大弥太は笠を取り頭巾を脱ぎ、額の汗をぬぐったが、
「追ったぞ追ったぞ、ずいぶん追ったぞ、でもよかった、追いついてよかった」
「大弥太!」
と、竹原入道の子息、その兄の方の左源太が云った。
「いま貴様いったいどこにいるのじゃ※(感嘆符疑問符、1-8-78)」
「熊野にいるのよ、定遍様の館に」
「ふうん」
と、兄弟は顔を見合せた。