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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

「それでも妻か! 妻といえるか!」

「…………」

「あなた、ないしは頼春様などと、俺を親しそうに呼ぶ女は誰だ!」

「…………」

「漢権守の恐ろしい居城の、あの騒乱の際において、ゆくりなく互いに手を取った、それが縁となって二人は逢い、話し合ってみれば、話し合ってみれば……が、わしは云った筈だ、『漂浪人同士、乞食同士となら、ついて来い、一緒に行こう』と。……」

「漂浪人同士にござります。乞食同志にございます」

「そうだ、二人は他人同志だ」

「でも……ああ……いつになりましたら?」

「…………」

「良人じゃ妻じゃと……」

早瀬は泣いた。

風が顔の前の垂れ布を靡かせ、涙の伝わっている頤のあたりを、白っぽい陽にひとしきり曝した。

「わしの罪が許された時に……」

「…………」

「わしの心はのびやかになろう」

「…………」

「人を許す心にもなるだろう」

「その時妾の罪を許して……」

「うむ」

と頼春は頷いた。

茫々と展開けている芒の原には、春の陽がなんどりとあたってい、小松が斑点のようにところどころに生え、小丘が波の蜒りのように、紫ばんだ陰影をもって、芒の上に起伏していた。

と、犬の悲鳴が聞こえ、そこから忽然と空へ向かって、純白な毬のような物が飛び上がり、すぐに芒の中へ落ちてしまった。