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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
しかし彼らの頭領が、飛天夜叉の桂子が、そんなような生活をはじめてからは、部下たちはあまり集まって来ず、集まって来てもだれきって、稽古などやろうとはしなかった。
で、この館はその内部も外見と同じように寂しくなり、蒼然となり恐ろしくさえなった。
「ああわしは一月というもの、お姫様のお姿を見かけない」
それは半欠けの下弦の月が、この館の構内の、大槻の木の梢の上に、傾むきながらかかっている、大分更けた夜のことであったが、大蔵ヶ谷右衛門はこう呟きながら、例の大鉞をひっさげて、でも大変悲しそうに、首を垂れ肩をちぢめ、庭を忍びやかに歩いていた。
「秋雨が高殿の古い欄干を、涙のようにぬらしていた晩だ。千切れた御簾を背後にして、その欄干にもたれかかり、ぼんやりとお庭を見下ろしておられた、お姫様のお姿を見かけたのは、一月前のことだった。……わしがお姫様と声をかけると、お答えはなくて頷かれたが、不意にお袖でお顔を蔽われたっけ。……きっとお泣きなされたのだ」
歩いて行く彼の足もとを横切って月光に背の毛を薄銀色に光らせ、太い紐のような一匹の※が、遥かむこうの庭の隅にある、老いた榎の洞の中へ、矢のように走り込んだ。