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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
身を……」
と枕刀を、早瀬は取って鞘を払った。
「早瀬!」
と仰天して頼春は、必死と早瀬の手を抑えた。
「死なばもろとも! ……なんのそち一人を! ……短気な! ……えい、タ、短気な! ……放せ! 放せ! これ放せ!」
刀をもぎ取って大息を吐いた。
戸外には夜風が出たと見えて、坪庭の植え込みのざわめく音や、落ちる木の実が池を叩く音が、幽かながらも聞こえて来た。
館の内はひっそりとしていた。
今夜も小次郎は宵のうちから、この館をぬけだして、二条あたりの怪しげな館へ、どうやらこっそり行ったらしく、早くから姿を見せなかったが、今に帰ってはいないようであった。
心をほそめた燭台の灯は、涙にぬれて色蒼ざめて、なお顫えている早瀬の顔と、背後のあたりに投げ出された抜き身を、怪しく凄じく照らし出していた。
「早瀬!」
と頼春は声を忍ばせて云った。
「…………」
早瀬は眼を据えて良人を見詰めた。
「早瀬!」
とまたも頼春は云った。
うわずった苦しそうな声であった。
「わしは苦しい」
と溜息を吐いた。
「明かせば武士がすたれよう! ……が、わしにはそなたが可愛い! ……そなたと別れるほどならば……そなたに疑がわれるほどならば……武士も、男も、なんの惜しかろうぞ! ……早瀬! 宮方ご謀反じゃ! ……それへわしも……わしも加担!」