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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
間もなく侍女に案内されて、素足の指に血などにじませ、かむって来たらしい被衣を手に持ち、髪を乱し顔蒼ざめた早瀬が、ソワソワした様子ではいって来た。
「お父様!」
と縋るように坐った。
「…………」
無言でそういう様子を見詰め、太郎左衛門はとむねをついた。
(尋常でない出来事らしい)
そう思ったからである。
「頼春は?」
とまず訊ねた。
「は、はい、良人頼春は……」
バラバラと涙をこぼしたが、
「わたくし無理に酒すすめまして、酔わせて深い眠りに入らせ……」
「…………」
「わたくし一人家をぬけ出し、ま、参りましてござります」
「…………」
親子は烈しく眼を見詰め合った。
六十近い太郎左衛門の、白髪の多い鬢の毛が、黒塗り燭台の灯に照らされて、銀線のように顫えて見えた。
「早瀬!」
と忍ばせた声ではあったが、強い烈しい力を持った声で、
「父を信じて……さあ何事も……心しずめて……云うがよいぞ。……頼春何んとかいたしたかな!」
「お父様!」
とこちらも必死! ――早瀬も必死の声を顫わせ、
「宮方ご謀反! 良人頼春も! ……」
「娘!」
「あッ……いえいえ……お父様!」
早瀬はグッと唾をのんだ。