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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
「小次郎や」
と桂子が云った。
とたんに鉞が宙へ上がった。
右衛門が鉞をふりあげたのである。
「さあ磨げた! 斬れるぞ斬れるぞ! 時々鉞も血を吸わないと、精気を失い元気を失う! ……斬られて血祭りにあげられたい奴、どこかにないか、あれば出て来い! ……女たらし、軟弱漢、不正直者、謀反人、忠義の心忘れた奴! ……北条高時、弓削ノ道鏡、蘇我の入鹿、川上梟帥、こういう奴ならいつでも斬る! ……われらがご主人桂子様ご姉妹、ご姉妹に、盾つく人間あらば、それこそ情け用捨はせぬ! ……すぐに斬る、遠慮なく斬る!」
頭上で鉞をふり廻した。
燈火に反射した鉞の刃は、蛍合戦の時数千の蛍が、塊まって巨大な球となり、それが虚空に渦巻くがように、青光り閃き渦をまいた。
小次郎は顫えて首をちぢめた。
(おれ斬られる! あぶねえあぶねえ!)
「右衛門や」
と桂子は云った。たしなめるような声であった。
「お前の心持ちはわかっているよ。……口に出してあまり云わないがいいよ。……お前の武勇も解っているよ。……大事に蔵っておくがいいよ」
「はい」
と右衛門は穏しく云った。
そうして鉞を床の上へつき、その柄へ躰をもたせかけた。