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あさひのよろい
あさひの鎧
国枝 史郎
「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页
そうかと思うと部屋の隅では、二十一、二の小綺麗な女が、鶏の啼き声を練習していた。
「コケッコッコ――、コッコッコ――。……トテッコッコ――、コッコッコ――。……」
それから両手で股の辺りを、
「パタパタパタ! パタパタパタ!」
羽搏きのようにひっ叩き、
「コッコッコ――、トテコ――ヨ――ッ」
「おいおい薬子、何んてえ態だ」
と、弓の折れの鞭を持った例の男が、
「それじゃ近所のどんな鶏だって、騙されて鬨なんかつくりゃアしないよ。……そいつア鶏の啼き声じゃアない。人間が鶏の啼き声を真似て、吼えているとしか思われやアしない」
「だって小父さんその通りだもの」
と、薬子も負けてはいなかった。
「わたし鶏の真似をしているんですよ」
「鶏の真似には違えねえが、真似になっちゃアいけねえんだ」
「だって妾鶏の真似をしているんですもの」
「くどい!」
と男は弓の折れで、薬子の肩をひっぱたいた。
「痛いヨ――、あンあンあン」
「おい泣き男泣き男!」
と、弓の折れの男は振り返って云った。
「あンあンあンという薬子の泣き声、こいつこそ本当の泣き声だ、参考にしろ参考にしろ」
「あンあンあン」
と泣き男は、すぐに薬子の泣き声を真似た。