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オリンポスのかじつ
オリンポスの果実
田中 英光
「文学界」1940(昭和15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,277 字 · 147 页
で、陽の照っているほうは、なんとか一世の善霊、鎮まり、雨に降られているほうは、蛮人なんとかの悪霊、鎮まるという、こんな伝説の固有名詞は全部忘れてしまいました。が、折からの驟雨が晴れて、水々しい山頂をくっきりと披璃のような青い空に、聳えさせていた峰々のうるわしさは、忘れません。
あなたはあのとき、びッしょり濡れて、善霊峰の下の洞穴に、風雨を避けていた。スカアトの襞も崩れ、手巾を冠って強風にあおられている。あなたは、朝の印象もあって、ばかに惨めにみえました。が、その苦しさも、ハワイの素晴しい自然が、すぐ慰めてくれ、甘いものとする。そう考えるほど、ぼくは自分のなかだけで、恋情を育てていたのです。
午後から、ハワイのロオイング倶楽部に、招待されて練習に行きました。
コオスはほんとうに、草花につつまれているのどかさで、小波ひとつなく、目にみえる流れさえない掘割でした。隅田川の濁流、ポンポン蒸汽、伝馬船、モオタアボオト等に囲まれ、せせこましい練習をしていた、ぼく達にとって、文字どおり、ドリイミング・コオスといった感じです。艇は、固定席が滑席艇に移るまえにあった。