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オリンポスのかじつ
オリンポスの果実
田中 英光
「文学界」1940(昭和15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,277 字 · 147 页
「少し、話し悪いことなんですが――」と前置きをして、清さんは切り出しました。「実は、あんたのことで、変な噂があるのを前からきいていましたが、坂本さんに限って、そんな莫迦はしないと、ぼくはいつも打消していました。
ところが、この頃、あんまり、森さんや、松山さん達が、心配するんでね、ぼくも、もう米国に着いたことだし、ここで、坂本さんにしっかりして貰えなきゃ困るんで、今日、改まって、訊く訳ですが、一体、あの噂は、何処ら辺までが本当なんです」
ぼくも、こんな風に言われると、やはり、自分の精神的な、苦悩は大切に蔵っておきたく、それとはあべこべに、あなたとの楽しかった遊びが、次から次へと、走馬燈のように想い出され、清さんのそれからの御意見も、いつしか空吹く風と、きき流したくなりました。と、不意に、(意見せられて、さし俯向いて――)という、おけさの一節が、頭に浮びました。(泣いていながら主のこと)なにか訴えるものが欲しかった。自然よ! と眼をあげた刹那、映じた風景は、むろん異国的ではありながら、その癖、未生前とでもいいますか、どこかで一回は眺めたことがあるという感懐が、肉体を痺れさせるほど、強くおそいました。