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なにがわたしをこうさせたか

何が私をこうさせたか

金子 ふみ子

――獄中手記――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,571 字 · 383 页

青空文庫

もっともそれは、学校のひけがいつも同じときまっているわけではなかったから、たまには五分や十分の寄り道はできるにはできたが、その代り見つかったら最後、大変だった。無論また、五分でも早く学校に出かけることも許されなかった。

ところが、私に大変心苦しいことが起ってきた。

今まではつい近くの線路を踏み切って町や学校に行けた私達は、いや、いわゆる山の手の人々は、駅長が代ってからその道をふさがれてしまった。そのために私達は遠廻りをしなければいわゆる下町のほうへは行かれなくなった。そこでその不便に耐えかねた人々は皆、線路の南側に転居し、北側には叔母の家のような暮し方をしている二、三軒と、貧乏な理髪屋の一軒だけとしか、日人の家というものがなくなってしまった。それはしかしまだいい。いけないことは、ここから学校に通うのは、私とその理髪屋の娘と――お巻さん――ばかりになったということである。

理髪屋は、叔母の家から半町たらず下の往来に沿うたところにあったが、狭いじめじめした土間に、水銀の剥げちらした鏡一つと、壊れた脚を麻縄でくるくると捲いた木の椅子が一つあるっきりの身窄らしい理髪屋であった。