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なにがわたしをこうさせたか

何が私をこうさせたか

金子 ふみ子

――獄中手記――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,571 字 · 383 页

青空文庫

「お父さんは嘘言ったね」と、さも不満そうに父に喰ってかかった。

「どうして?」

「どうしてって、僕学校に行って見たら、僕の靴、いい方でなくて安い方だったじゃないか」

父は多少どぎまぎして、苦い顔をして答えた。

「いいえ、お父さんは決して嘘は言わない。それはたしかに十二円の分です」

が、賢は承知しなかった。

「だって、梅田君のも鈴木君のも八円だって言ってたが、僕のとそっくりだもの。十二円の分を穿いてるものもあったが、それはずっと拵え方が叮嚀で、皮も上等だった」

父はてれ隠しにエヘンと咳払いをして、わざと落ち着き払って答えた。

「いいえ……お父さんはいくら貧乏していてもあんたにだけは肩身の狭い思いはさせません。父さんはちゃんと十二円払いました」

賢はまだ父の言葉を信じかねたが、仕方なしに自分の部屋に這入って来た。そして肩から鞄をおろして、傍で針仕事をしていた叔母と私とに小声で言った。

「ねえ、お母さん、姉さん、お父さんはあんなこと言うが、僕のはたしかに八円の分だね」

事実、賢の言う通りだった。

父は平生から、物を見る標準を金に置いていた。品物を買うのにも、まず値段をきいて、それで品物のよいわるいを決めていた。