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なにがわたしをこうさせたか

何が私をこうさせたか

金子 ふみ子

――獄中手記――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,571 字 · 383 页

青空文庫

蛍雪舎は上野広小路に近い上野町の路地の奥にあった。行って見るとそこは新聞取次ぎ業をしているところで、「白旗新聞店」という看板がかかげられていた。

店の入口には硝子戸が締っていて、三坪ばかりの土間には卓子が二つ置かれており、若い青年がそれに凭りかかって帳簿かなんかを調べていた。

「ごめんください」と私は多少どぎまぎしながら硝子戸をあけて、中の青年に呼びかけた。

青年は帳簿から眼を離して無愛想に私の顔を見た。

「あの、私、使っていただきたいんですが、御主人はいらっしゃいますでしょうか」

「さあ」と青年はちょっと首を傾げてから、奥の方に這入って行った。が、やがてそこへ、でっぷり肥った赤ら顔の大きな男が現われた。それがこの家の主人であった。

私はその主人に、苦学をしたいから使ってほしいと願った。主人は黙ってじろじろと私の顔を眺めていたが、これも無愛想に、

「なかなか苦しいですからな。女の方ではとても辛抱ができませんよ」と言った。

どんなに苦しかろうが、そんなことは平気だと、私は心の中で思った。また、こんな都合のいいところはない、ぜひ入れてもらわなければならぬと決心の臍をかためた。