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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

――安倍は人間嫌いだから、草木でも相手にするほうが気楽だろう。

そんなことを云っていた。そしてこんどの役替えになったのである。

谷町から木挽町へゆくと、山村座は休演ちゅうであった。毎年七月いっぱいはたいていの芝居が休む。断わるまでもないだろうが、当時は照明に蝋燭を使うため、客席の出入り口や戸や窓を閉めなければならない。それと、じっさいにも、暑いから客足がおちるので、よほどの条件でもないかぎり、休演するのが例であった。

いつもはためいている幡旗もなく、絵看板も、役者の名を書きつらねた庵看板もなく、ひっそりと木戸をおろした劇場や、その前の、人通りも稀な広い道の上に、午ちかい晩夏の日が、ぎらぎら照りつけているさまは、云いようもなくもの佗しい、眺めであった。

「まあお珍しい、ずいぶんお久しぶりですね」

茶屋の店の脇で、客膳用の器物を出して、つや布巾をかけていた女中たちのなかから、おいそが呼びかけ、同時になをが、冠っていた手拭や、襷を外しながら出迎えた。

「ひまなもんですから、いろんな物の風入れをしてますの、今日はおつれさまは」

「あとから来るが、いいのか」

「なにがですか」