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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页
「むりにも来るよ、こんどは松室もつれてね、ひとつ松茸の汁で栗飯でも食わせて貰おう」
気持の沈む日が続いた。
雨はいっときもやまないので、外へ出ることもできず、村野が相手では、話のたねもなかった。そのうえ、心中したなをのことが、いつまでも頭にしみついていて、ふとすると、眉をしかめるほど、心の痛むことがあった。
あの日、なをは陽気で、嬉しそうで、人が変ったようにはしゃいでいた。半之助に問いかけられて、男のことを話して、
――あらごめんなさい。
手放しでのろけたりして、などと云って赤くなった。いかにも幸福そうであったが、いまから思い返すと、それは死ぬ覚悟をきめた者の、絶望の仮面であったのだ。
「――可哀そうに」
半之助は幾たびも、そっと、こう呟いた。
六月の集まりのときに、思いつめたような顔つきで、相談したいことがある、と云った。あのときすでに、亭主の出獄することが、わかっていたのであろう。だが、やはり云いだすことができなかった。病気で寝たきりの父、四人の弟や妹、半之助には夢にも思い及ばなかったが、自分の子もあったという。母が女の身で人夫をし、なをの稼ぎと合わせて、かつかつの暮しをしていた。