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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

来太の喉がごくっと鳴った、「つまり柳沢侯は、御家門に列せられ、御諱字を頂き、要するに誰でも御大老と」

「誰でも、……というのは」

「誰でもとは誰でもだ、柳沢美濃守さまが御大老だということは、武鑑などにも記載してあるし、世間一般の常識として」

「巷間の板行物や世評を聞いているのではない、改めて申すが、柳沢侯は老中首席であって、大老ではないのだ」

来太は歯をくいしばった。これまで「大老」でとおってきたが、正式に任官したのではなく、一般が、その大きな権勢に、おもねる呼称だった。しぜんひらきなおって詰問されると、抗弁する余地はなかったのである。

「次に訊ねるが、そこもとは柳沢家においていかなる身分であるか、また役名、食禄などはいかがであるか、うかがいたい」

平四郎は憎いほど静かに、そして無表情に、問いをすすめた。

「自分は柳沢家の家臣である」

「それはわかっています」

「柳沢家の、この荷駄の……」

来太はつまった。そして、屈辱のために逆上した。

「ええ、こんなばかなことがあるか、いったい貴公の不審はなんだ、この荷駄か、それともこのおれか、関守には関守の権限がある筈だ、まずそれから聞こうではないか、貴公の不審はどっちだ」