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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页
半之助の位置からは、よく聞きとれなかったが、その日が武田信玄の忌日に当ること、その儀式が、信玄の霊をなぐさめ、報恩の誓いを新たにするものであることは、およそ理解することができた。
――叔父の書いているとおり、これが武田氏の遠祖と関係のある、武田八幡にちがいない、そして、内陣にいるあの老人が、みどう清左衛門という人であろう。
舞っている一人が、花世であることは、躯つきや、その声の調子でわかった。
――もう一人は誰だろう。
声は花世のそれより韻が深く、身のこなしは激しく、やや荒あらしくさえあった。花世に姉のあることを、半之助はまだ知らないので、それが誰であるかは、見当がつかなかった。
とつぜん、鳥が舞いおりた。
杉の梢から、鳩くらいの大きさの鳥が、さっと舞いおりて来て、翼をひらめかしながら、狂ったように、篝火のまわりを飛びまわり、キキッとするどく鳴き、次の篝火へ移ったが、炎にどこかを焼かれたのだろう、横さまに地面へ落ち、ぱっと羽毛を散らしながら、苦しげに地をはたき、転々と身もだえた。
そのとき、ちょうど、舞が終った。そして、登世が天女の衣装のまま、舞台の端へ来て、仮面をぬぎながら、下座の者に向って、「あの鳥を、……」