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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

そのとき彼は、死躰の足のほうにいたのであるが、そこからみると、死躰の顔が(苦痛に歪んだまま)生きているかのように思えたのだ。彼は眼をそらそうとした。が、すぐにこんどこそ高く叫び声をあげた。

彼がぞっとしたのは、死躰の顔が生きているように、見えたためではなかった。

誰かに似ていたのだ。彼がよく知っていて、しかも、忘れることのできない、誰かの顔に……。それは叔父に似ていた。古い死躰で、おも変りがしているだろうか。いや、乾いている空気と、地質の関係から、それは甚だしい変化はないようだ。もちろん、叔父とは十二歳のとき会ったきりで、記憶はかなりあいまいである。その顔が少しも変っていないとしても、たしかな判断はできないにちがいない。しかし、やっぱりそれは、叔父に似ていた。

半之助は蝋燭を左に右に動かした。まぎれもなく、叔父に似ていた。よく似ていた、歪んだ顔の下半分に、あの、人を嘲弄するような、それでいて穏やかな微笑が、いまにもうかんできそうであった。

――此処はかんば沢に近い。

叔父はかんば沢へはいって、そのまま行方不明になり、遺骸もみつからなかった。

「これがもし叔父だとすれば」