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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

発見した財宝の巨額さが、叔父を誘惑しなかった、とはいえないであろう。それはあらゆる享楽や、自由や、欲望の満足を、約束する、まったく新しく、しかも解放された生活にはいることができる。

叔父は狂人をよそおった。それは前例があるうえに、自分の失踪をうなずかせ、なお、他の者を「かんば沢」へ近よせないための、無言の警告にもなる。ことさらに混乱し、恐怖を誇張した手記を遺し、狂気をよそおって、そして叔父は、遠藤兵庫としての自分を、この地上から抹殺した。人々は少しも疑わなかった。遠藤兵庫は失踪した、と信じられた。

叔父は時期をはかって、この洞窟に入り、ひそかに財宝を持ち出した。一度か二度か、もっとしばしばか、それを知ることはできない。しかし或るとき、洞窟が崩れ、頭を砕かれて、死んだ。

「こう考えては、あまりに付会しすぎるだろうか、あの死躰と、宝玉を詰めた革袋と、崩れている岩と、そして、あの……」

自分に向ってたしかめるように、こう云いかけたが、そこで彼は口をつぐみ、蝋燭の火を隠しながら、ふり返った。

人の声が聞えた。

反響するのでよくわからないが、かん高く、短い、叫ぶような声が。