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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页
――誰だったろう。
たしかに知っている顔だった。特に微笑している唇のあたりが、……こう思っていると、それはほんの僅かな時間であったが、相手は侮辱されでもしたように、顔を歪めながら、
「五番町の遠藤です」と云った、「お忘れですか、千之助ですよ」
半之助はすぐ思いだした。そして、わけもなくどきっとしながら、「これは失敬、すっかり変ったものだから、ちょっと見それてしまった」
「そんなに変りましたか」
千之助はにっと笑った。
「そうじゃないでしょう、覚えていらっしゃらなかったんでしょう」
「――どうして」
「どうしてって、私はそう思うんですよ」
あいそよく微笑しているが、それは明らかに毒をもっていた。
――ああ、あの笑い方だ。
半之助はそこでまたどきっとした。やさしげにはみえるが、皮肉で、人を嘲弄するような微笑。それは千之助には父、半之助にとっては叔父に当る人。約十年まえに、かんば沢でふしぎな失踪をした、兵庫その人のものに、ひどく似ているようだった。
――だが、そんな筈はない。
半之助はこう思いながら、(いどむような相手の調子には構わず)五番町ではみなさん御健在ですか、と話をそらした。