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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页
凭れかかっている花世の、柔らかい肩が、温かく、しんなりと重くなり、気がついてみると、どうやらうたたねをしているらしく、かすかに、安らかな寝息が聞えた。
「眠ってはいけない、風邪をひくよ」
半之助は、彼女の肩へ、そっと手をまわしながら、囁いた。
花世は「うふん」と鼻ごえをあげ、抱かれた腕の中で、彼のほうに身をすり寄せ、頭をこちらの肩へ乗せてしまった。つむった眼の、長い睫毛が、月の光りで下瞼に影をおとしている。……うぶ毛の生えた、なめらかな頬、かたちよく波うっている唇、あまり高くはないが、ふっくらとした、可愛い鼻。これらはすぐ眼の前に、殆んど相触れそうな位置にある。……母親の乳の匂いのように、寝息があまく匂った。包むような、ほのかにあまく、温かい匂いである。それは寝息だけではなく、肌からの匂いも、混っているようだ。
――あんまりお饒舌りをしすぎて、疲れてしまったんだな。
半之助はこう思って、ふと微笑しながら、片方の手で静かに、怖れるように、彼女の髪を撫でた。
花世はまた鼻声をあげ、仔猫が母のふところをさぐるように、肩と頭とを彼にすりつけた。彼が抱いた腕に力をいれると、さらにしんなりと重みがかかり、ふと片手を、彼の着物の衿から、ふところへとさし入れた。