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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页
「私と話すのはおいやらしいですね」
「――どうして」
「ごきげんも斜めのようだし、質問にも答えて下さらない」
千之助はまたうす笑いをした。
「それはいま始まったことじゃない、貴方がいつも私を避けていらっしゃることは、ずっとまえから知っていました、いくら一つ木のお宅へ伺っても、いちどとして親しく話をして下すったことがない、必ず私を避ける、どうしてなんですか」
「――そんなことはない、それはおそらく偶然だろう」
そのとき、おいそとなをが、酒肴の膳をはこんで来た。
「偶然ですって、とんでもない」
女中たちが去るのを待ちかねたように、千之助はちょっと詰めよるといった態度になった。
「理由はおよそわかってるんです、隠したってだめですよ」
「隠すって、なにを……」
「云いましょうか」彼の額がすっと白くなった、「私の父のことです、父と母のことですよ」
「――わからないね」
「だめですよ、貴方はいまぎくりとなすったし、私の眼が見られないじゃありませんか、なにもかも知っているということが、お顔にちゃんと書いてありますよ」
「失敬だが帰って呉れないか」
半之助は穏やかに云った。
「なんのことだかわからないが、私は他人から、そんなふうに云われることに、慣れていないし、こんなところで、こんな問答をしたいとも思わない、話があったら家で聞くことにしよう」