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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

「――というと」

「一種の賄賂というやつさ、はっきり云うとごきげんとりだね」

「――すると」

主馬はふと思い当ったように頷いた。

「縁談というわけだな、あの法事の日に来ていた人だろう」

「どうして知っている」

「どうしてって、正木の失言で、われわれはこの家へ来ざるを得なくなったじゃないか、あのとき給仕に出たんで、拝見したのさ」

「そんなふうがみえたんだな」

「明らかに、嫁の候補者という、ようすだったね」

「つまり、それさ」半之助は盃を下に置いた、「いつか話したと思うが、谷町というのは立身出世主義と、物欲の固まりのような人間なんだ、父も嫌っていたし、おれもとうてい好きにはなれない」

「しかも、みこまれたわけか」

「それもおれの人間をみこんだのではなく、要するに頭数の問題さ、老人は少将(柳沢吉保)にとりいって、自分の勢力を拡張することに狂奔している、おれに娘を呉れて、陣笠の数を殖やそうというつもりなんだ」

「そしてお母さんは、そうなさりたい、というわけか」

「まだあからさまには、云わないがね」

半之助はにがい顔をした。

「そうだとすると、よほど警戒しなければいけないな」

主馬が云った。