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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

「ちょっとひと風呂あびないか」

こう云って、半之助を促し、いっしょに廊下へ出ながら、「いまの弓は菱屋庄兵衛といって、柳沢の家来なんだ、弓では江戸一番だそうだがね、京の三十三間堂の通し矢をする、という触れだしで、いましきりに矢の寄進を募っている、本当に通し矢をするかどうか、そこは大いに疑わしいんだが」

「もう一人の男も、柳沢の人間か」

「そうだ、次高来太といって、みじん流の剣術をつかうそうだ、この家の主人が柳沢にとりいってるので、あのれんちゅう、自分たちのいい宿坊のつもりでいるらしい」

「つまらない話だ」

変った造りの、風呂舎へはいりながら、半之助は興ざめ顔に云った。

「これが見せて呉れる証拠というやつか」

「まだまだ、時間はたっぷりあるさ、まず美味い物を食ってからのことだ」

風呂舎はやはり檜材の、三方板張りで、天床に硝子製の(当時としては極めて贅沢な)吊り灯りがあり、入口の戸を閉めると、高さ一丈、周囲八尺ほどの箱のようになる。下が簀子で、その間から湯気がふきあがってくる、つまり蒸し風呂であるが、かれらのあとから、腰のものひとつで、豊かな胸乳をあらわにした、若い女が二人、はいって来たのには、半之助は迷惑した。