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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

二人とも御側衆であった。

「先の一人は誰だ」

「侍従だよ」

「――侍従とは」

「吉里さ」

半之助はふり向いて、奥のほうへ去るそのうしろ姿を、改めて見なおした。吉里といえば、従四位侍従の柳沢吉里、つまり美濃守吉保の長男である。これまでにも、城中で二度ばかりみかけたが、背丈の小さな、白面の、どこかしら陰気な青年のように、覚えていたが、いまちょっと見たところでは、かなり肥えたようである。

「あとの二人は水野と大久保だろう」

「そうだ、先客も四人ばかりある、そのなかの一人は右京大夫さ」

「御側用人か」

風呂舎で彼が、神田橋、と云ったので、半之助はそう訊いた。松平右京大夫輝貞は、上やしきが神田橋内にあり、御側用人を勤めていた。

「たいそうな顔触れじゃないか、こんなところでなにが始まるんだ」

「定例会談だよ」主馬はあっさり答えた、「七日めごとに一回、この家で集まって会談をするんだ、顔触れはそのときどきで、一定しないがね」

「――どうして、また、そんなことを」

「おれなどが、というのか」

こう云って、主馬はふと箸を取った。

「いまのうちに、ちょっとこいつを片づけよう、鮎の若竹蒸しというんだ、あとでまた珍味が来るからね」