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やまびこおとめ
山彦乙女
山本 周五郎
「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页
また掛け汁は、茱萸とやまももの実を煮詰めて、絞ったものだ、ということであった。
「村田ならよろこぶだろう」半之助は喰べながら、「彼は長崎へいって来たし、あっちではこんなのをよく喰べてるんじゃないのか」
するとふいに、なにか喉につかえでもしたように、主馬が激しく咳きこんだ。
「やあ失敬、この掛け汁にむせちゃって」
彼は手拭で、口の端を拭き、わきを見ながらそう云った。それでなおさら、むせたのでないことがわかった。……半之助はちょっと、しらけたような気分になったが、その肉の味と、珍しい料理法に興味をひかれ、ぜひ村田平四郎に喰べさせたいものだ、などと思った。
砂糖漬けの杏子に、茶が出たあと、席を変えて酒にする、ということで、二人はその座敷を立った。
「もうたくさんだね、飲めそうもないよ」
「肴が変れば結構いけるさ」
「まだなにか食わせるのか」
「見せると云った証拠というやつさ、忘れたのかね」
こう云って、主馬は、なにか意味ありげな眼くばせをした。
庭とは反対がわにある、うす暗い中廊下を、鉤の手に曲ってゆき、二階へあがって、六帖の座敷へはいった。主馬は案内して来た女中に、なにか囁き、女中は頷いて、「はい、あいております」