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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

「私には信じられません」

ややあっけにとられたふうで、権之丞はそっと首を振った。

「もしそのような事実があったとしたら、今日まで誰も知らぬということは、ない筈ではございませんか」

「権之丞が知らぬからといって、知っている者がなかったとはいえないでしょう」

「では誰かそれを知っている者が」

「誰かではなく、誰でも、というべきでしょう、甘利一郷の住民は、みどうの者の申しつけには、決して違背したことがない、口外するなと云えば、殺されても口外はしません」

「しかし事とばあいによります」

「そのとおりです、事とばあい、とりわけ御再興にかかわりのあるばあいにはです」

「――――」

「現に、この登世のことがそうでしょう、登世のしていることが、今日まで、お父さまにさえわからなかったではありませんか」

彼女の眼はしだいに輝きを増し、その表情には、一種の偏執的な色さえ、あらわれだした。

「慶安の騒動は失敗に終りました、失敗した理由はいろいろあるでしょうが、いちばん大事な点は、事を企てた人間が、孤立した浪人者であり、拠って起つ地盤も勢力もなかった、ということでしょう、また、お祖母さまの書き残したものによると、御援助のなさりかたも中途半端なもので、御自分でも事が成功しようとは、お考えになっていなかったように思えます、登世のはそんなものではありませ