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やまびこおとめ

山彦乙女

山本 周五郎

「夕刊朝日新聞」1951(昭和26)年6月18日~9月30日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,360 字 · 251 页

青空文庫

船頭もすぐ舟の向きを変えたが、少女はまるで気がつかなかった。

「舟をお停めと云ったのに」

こう云いながら、極めて巧みに、舟の上へあがった。

「水の中では舟の影がはっきり見えるから、動いて来ればすぐ逃げてしまうじゃないの」

「乙女さま、これを」

若者は浴衣を取って、すぐに少女の躯を包もうとした。しかし、向うの舟の男たちは、すっかり見てしまったらしい。わっという声をあげ、舟ばたを叩き、つまらない悪口を叫んだ。

少女はきっとふり返った。

「あれは乙女のことを笑っているのか」

彼女はこう云って、若者のさしだす浴衣を押しのけた。

束ねて背へ垂れた髪が、もつれて、胸の一部を掩っていた。そのほかは隠れるところもなくあらわである。胸も腰もまだ固そうだが、すこやかに発達した、柔軟なまるみが、そのためにかえって、神々しくさえみえた。

片手で髪に含んだ水を絞り、片手で(まったく無意識らしい)軽く乳房を押えながら、彼女は釣舟のほうを、怒りの眼で見た。若者はなお、浴衣で彼女を包もうとしながら、「おくにとは違いますから、どうぞ早くおめし下さい、そんな恰好をしていらっしゃると、このあたりでは誰でも笑います」