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さこんのいかり

左近の怒り

坂口 安吾

「講談倶楽部 第六巻第九号~第一一号」1954(昭和29)年7月1日~9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,454 字 · 95 页

青空文庫

それを見ると、葉子は女に向って急いで云った。

「私の見知りの人たちですわ。あなたの運転手とめてちょうだい」

「あら、そうなの。大丈夫よ。私の運転手、平和主義者だから。どうなさる。あなた、あの車で帰りたい?」

葉子はうなずいた。さすがに大きな声で云う力はなかったが、

「夏川さんは白雲荘にいらッしゃるんじゃないんですもの。夏川さんのいらッしゃるのは、どこなんですか。そこへ行きたいのです」

「そこは女だけでは行けないところです。危険な場所よ。でも、いいわ。あなたはあの車で帰りなさい。夏川さんは私がきっと助けだしてあげますから。まだ四時間半ほど間があるから、安心してらッしゃい。そしてね、どんな場合でも私を疑らないようにね。あなた方の本当の味方は私だけよ」

女はドアをあけて葉子を降した。そのとき運転手が不キゲンな顔で戻ってきて、

「ケンカ腰ですよ。ずいぶん礼儀知らずの連中で、こッちを誘拐犯人扱いしてるんですよ」

「もう、いいのよ。葉子さんがよく説明してくださるでしょうから。じゃ葉子さん、ゴキゲンよう。安心してらッしゃいね」

葉子とボロタクを残して緑の自動車は立ち去ってしまったのである。