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さこんのいかり

左近の怒り

坂口 安吾

「講談倶楽部 第六巻第九号~第一一号」1954(昭和29)年7月1日~9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,454 字 · 95 页

青空文庫

また注射をうつ。だんだん安らかそうになってきた。そして病人ははじめて大きく一息ついた。

「どうやら、大丈夫だ」

住田は呟きを残してまた静かに立ち去ってしまった。

医者はそれから三四十分念入りに手当てをしたり観察したりしていたが、ようやく安心して器具を片づけはじめた。オバサンが小声で、

「お部屋をうつしてよろしゅうございますか」

「とんでもない。絶対安静です。看護婦をつけた方が安心でしょうね。一人さがしてあげましょうか」

「ダンナさまに伺ってあとでお願い致すかも知れませんが」

「イヤ、看護婦は当節めったに見つからないから、つけない方が私も世話がなくて楽だが、しかしこの容態ではあなた方の附添では心もとない。とにかく、絶対安静。これが第一です」

注意を与えて医者は去った。オバサンは途方にくれた様子で戻ってきて、葉子に向い、

「思いがけないことになって、こまりましたねえ。他に適当な部屋がなくってね。なんとか考えて方法をとりますから、しばらくこの部屋の隅で我慢して下さい」

オバサンのほかに若い女中が一人看護に当っている。葉子が若い女中に話しかけても、彼女は絶対に返事をしないし、ふりむきもしない。