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さこんのいかり

左近の怒り

坂口 安吾

「講談倶楽部 第六巻第九号~第一一号」1954(昭和29)年7月1日~9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,454 字 · 95 页

青空文庫

オレのテレビアンテナさ。どうだい、事情が分ったかい」

「ウーム」

「わが社があすの朝刊に一億五千万の動きをほのめかすのも彼らに実行をいそがせる手段なんだよ。他社の奴が慌ててここへ駈けつけるかも知れないが、奴らには白ッぱくれて、住田から出版中止の使いが来たら、太平洋新聞へだけ知らせてもらいたいね」

「いいとも」

「ありがてえな。さすがにオレの見こんだ人物だ。キミは将来大物になるぜ」

「お茶のみなよ」

葉子同様、全身にみなぎる緊張をぐッと押えて素知らぬフリをしているのは洋次郎であった。ほかならぬ出版中止の交渉役をたったいましがた命ぜられたばかりである。もっとも、それが住田からの命令かどうかは分らないが、ともかく太平洋新聞がアンテナにかかるのを待ちかまえている重大事であることは明白だ。

――しかし、ずッとオレを苦しめてきた蔭の人物が住田かなア。

洋次郎は疑問に思った。新聞社なぞというものは、あまりにもカングリすぎる傾きがあるようだ。ギャングの世界は実はわりかた単純だ。これはやっぱり汚職方の指金と見るべきだろう、というのが彼の大体の考え方であったのである。もしも葉子のユーカイされた家が住田嘉久馬の別荘と知ったら、彼はキモをつぶして考え直したであろう。