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さこんのいかり

左近の怒り

坂口 安吾

「講談倶楽部 第六巻第九号~第一一号」1954(昭和29)年7月1日~9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,454 字 · 95 页

青空文庫

それを知らなかったのがシアワセだった。谷本はタコスケにくれぐれもたのみ、男と男の握手を交してニコヤカに立ち去ったのである。

左近の怒り

左近は酒店をでると氏家と別れ、銀座の人波にもまれて歩いた。

北は北海道、南は九州の果にいたるまで、淋しい漁港は何々銀座という通りがあるものだ。まッくらな銀座である。まれに一二軒ネオンのついた店があって、それが女のいる酒場であり、カツレツだのカツドンなどを食べさせるのである。東京の銀座とはまるで趣きがちがう。

しかし左近にとっては、まっくらな何々銀座の方がなつかしい。東京の銀座がむしろ名をかりたニセモノのような気がするぐらい寂れはてた何々銀座に心がなじんでいるのである。その銀座はふだんは八時すぎると人ッ子一人通らぬような道であるが、大漁の船がはいると一晩中ドンチャカ音の絶え間がない道でもあった。しかし当節はめったに大漁がなくなったから、せっかくオカへあがっても何々銀座の焼芋屋で十円の芋を買うのが精一パイといううらぶれた銀ブラをしなければならないことが多いのである。しかしうらぶれた銀座通りをスキ腹をかかえてサッソウと歩くのはわるくない。