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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

「ハテ、定期券ね。安彦君の所持品に、定期券があったかね」

「ありません。彼の荷物はフロシキに包んだ洗面具だけです。そのほかに、チリ紙若干、鉛筆一本」

「小田原駅のタクシーの運転手も、紙片を示されて乗せてきたと言ったが、その紙片はあるかね」

「ありません」

「まア、紙キレぐらいは、仕方がないな。掃除の時にはきだしたかも知れないからな。しかし、定期券がなくなるのはおかしいね。貪慾だというから、捨てることはなかろう。それとも、十六日に期限がきれたから、それをシオに、アルバイトを中止して、実家へ戻ったというわけかね」

「定期券の期限は調べませんでしたが、伊東の駅員も、彼が定期で通っていたことは証言がありました。九月十六日は、あるいは、期限の切れた日かも知れません。なんしろ、毎日のことですから、土地の人はだんだん冷淡になりますし、夏枯れで、温泉客もなく、夏からズッと収入が減っていたそうですから、里心がついたのかも知れません。とにかく、一ヶ月前あたりから、小田原の実家へ帰る、という意志をもらしていたことは、まちがいありません。筆談ですから、印象も強いわけです。実家はどこか、と問うと、オダワラ、と片仮名で書いて示したそうです。