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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

「なアに、いつものことですさ。この物の不自由な時に、そうでなくたって、手の指は、そのために使うためにあるものだアね」

その時、横手から、ワッハッハッ、と笑い声をたてたのは、たまたま、居合した久七のオヤジの重吉であった。

「若旦那は、今まで知らなかったかね。オレは朝鮮にいた頃から、もう二十年ちかく、紙でケツをふいたことはなかったね。ここへきて十年にもなるのに、若旦那の眼力が、今ごろ、ようやく見破るとは」

重吉は、よろこんで、ゲタ/\笑った。

公一は物も言わなかった。彼はふりむいて、重吉らの住む部屋へ駈けこみ、そこに居合したモト子をつきとばし、押入をあけると、重吉一家のフトンや品物を手当り次第、窓から外へ投げすてた。

「出て行け! たった、今、出て行け!」

彼は品々を手当り次第投げすてながら、蒼白となって、狂い叫んだ。

発作がおさまって後も、公一の決意は変らなかった。彼はその日の夕食後、父の由之に向って、不潔な重吉一族をこの家から追放することができなければ、自分がこの家を立ち去ることを提言して、ゆずらなかった。

「あれが出て行くと、この大世帯じゃ、すぐにも人手に不自由ですからな。