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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

私から、今後をよくいましめますから、今度のところは見逃してやっていたゞけませんか」

と起久子の聟の滝沢が言った。そう言わざるを得ないのが滝沢であった。なぜなら、由之は、こういうことには風馬牛で、どちらかと云えば、神経質で、事々にイライラと女々しく騒ぎ立てる長男の公一よりも、むしろ牛のような下男一族を、かばう気風すらあったからだ。滝沢が、こういう風に口をきいてやらなければ、ウルサイ、と、一言のもとに、怒鳴りたつのが由之であった。

「まア、そうさ。兄さんみたいに、神経質にガミガミ云ったって、この戦争じゃア、我々だっていつ手でケツをふかなきゃならないか分りゃしないね。今だって、もう、ろくすっぽ、紙なんかありゃしないじゃないか。兄さんだって、今に、手でケツをふくようになるのかも知れないよ」

と、次男の安彦が和した。その言葉に嘲りなどはなかったが、ユーモアが、嘲りのように、公一のカンにひゞいた。

殺気立った公一は、やにわに安彦を殴り倒した。不意をつかれた安彦は、椅子と共に、部屋の隅にころげていた。

この一家族は、女達と、腺病質な公一をのぞいて、いずれも体格のガッシリしたスポーツマン一家であった。