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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

安彦氏は由子さんに恋していたそうですが、その恋情がどれぐらいか知らないが、食慾以上のものだとは思われませんな。すくなくとも、療養所の食事は、傷病兵の訴えによってみても、日本の最低の、一つではないでしょうか。ほかに当がなければとにかく、汽車で一時間のところに実家があるのに、そこへ帰って空腹をみたす慾を起さなかったのが解せませんよ。まア、特に個性的な羞恥とか、いろいろ秘密もあるかも知れませんし、家に寝たきりの不自由さより、募金して勝手に使う自由の方がいいかも知れませんが、食慾にひかれて街頭へ立つぐらいなら、それ以前に生家へ帰るのが自然だろうと思いますよ」

どうも私は食慾を上に置きすぎるかも知れない。しかし、戦争中の空腹から得たちかごろの信念でもある。ムササビは自殺獣だそうだ。捕えて動物園へつれてきても、人の与えた食物はどうしても食べず、絶食のアゲク死んでしまうそうだ。ゴリラもそうらしい。生かして動物園へつれてくるまでには、長年月にわたる失敗と研究があったらしい。

動物ですら、食慾などを意とせぬ郷愁があるではないか、と云うなかれ。動物だから、そうなのだ。