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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

スミ子はようやくこらえて、巨勢博士を見つめた。そして、答えなかった。巨勢博士はニコニコした。

「そのあとで、定夫君から電話がきたのは、何時ごろでした?」

スミ子は俯向いて、唇を堅く噛みしめた。そして、貝のように、口をひらこうとしなかった。

「もう、よろしい。お前の部屋で、やすむがよい」

大矢警部はスミ子をさがらせると、三村刑事に、

「君、誰か走らせて、駅員にきいてもらってくれたまえ。バンタム級新人王の顔を知らない駅員はいない筈だ。それから、モトをよんで貰おうかね」

三村刑事は巡査にムネをふくめて駅へ走らせてのち、モトをつれて引返してきた。

「何も心配することはないのだよ。見た通り、きいた通り、語ってくれゝばいゝのさ。お前の主人はどこへ出掛けたね?」

「たぶんカストリでもひッかけに出掛けたのでしょう。毎晩よッぱらって、おそく帰ります」

「そうそう。蛸のように赤く酔っ払っている重吉といえば、十年さきからの名物男だものな。そして、何時ごろ出掛けたね?」

腰をぬかして、声もだせずに、娘に縋りついていたというモトが、そんな様子はどこにも見えなかった。

「八時ごろでしたかね。