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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

重吉は平然たるものだった。小さな目玉をクルクルまわして、愛嬌のある笑いをうかべているだけである。

「どうして人殺しだと思ったのかね」

「昔から人殺しのありつけのうちですからさ」

「お前は、誰が殺されたと思うかね」

「エッヘッヘ」

重吉は片手を尻へ当てゝ、口をとんがらしてシカメッ面をしているうちにブッと屁をつかんで、頭の上へかざして、握った手をひろげた。

「蛸のツカミ屁。私は石頭だから、こうして気合いをかけないと、考えが浮かばないタチなんでさ。まア、旦那そう、じらさないで、殺された人の名をきかせて下さい。石頭をいじめたって仕様がないさね」

「滝沢起久子が殺されたよ」

「ハテネ。起久子さん」

「復員した安彦も殺されたよ」

「ホホウ」

「由之氏、由子さん、美津子さんは催眠薬で眠らされている」

「その三人も死にましたか」

「ハッキリしないが、先ず死なゝいことの方が多いかも知れないよ」

「さて、そう何人も人の名前がでゝくると、こんがらがって、わからないよ」

と、重吉は考えこんだ。起久子、安彦と、彼は指を折って考えこんでいたが、また、口をとんがらして、頭上へ蛸のツカミ屁をくれて、気合いをかけた。