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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

素早い奴で、誰だかまったく分りませんが、男でしたと思います」

「なぜ男とわかったね」

「素早いからですよ。第一女があの道を夜歩きしませんよ」

「お前が家へ戻ったとき、まだ帰宅しなかったのは誰々だね」

「女はみんな家にいました。野郎共は一人もいません。なぜ分るかと申しますと、そのちょッと前に安彦様へ赤紙が来て、皆さん広間へ集って、ワアワア噂していたからですよ。カンジンの野郎共が一人も姿が見えなかったんですよ」

「お前が帰宅したのは何時だね」

「五時半でした。ふだん時間など気にしませんが、夕飯の仕度がおくれるのを気にしていましたから、時計を見ると五時半すぎです」

これは甚だ重要な証言だった。五時半すぎまでは、男は一人も帰宅しなかったのである。

男たちの帰宅の順は次のようである。久七(五時四十五分ごろ)それから約十分おくれて安彦と定夫の兄弟が同時に戻ってきた。滝沢三次郎は六時四五十分ごろ帰宅した。由之は事件が起って報らせが行くまで、妾宅で酒をのんでいた。

各人が自供しているアリバイは次のようであった。

久七。野球場の周辺の山で、焚木をひろっていた。六七貫の薪を背負って帰宅している。