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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

安彦が犯人をかばうとすれば、その場合が最も理のあるところである。

安彦は、なぜ自殺の理由が云えぬか、という訊問に答えて、弟として言うことのできない理由だから、と返答をこばんでいる。つまり、父とアニヨメの関係を自殺の理由として暗示しているのである。

由之が公一を殺すとすれば、殺意は由子に起因していることが想像できる。又、安彦が父をかばうとすれば、父とアニヨメの関係をかばうのではなく、由子をとられた恨みによって、兄を自殺と称するのであり、必ずしも犯人をかばうことが目的ではなかろう。のみならず、犯人も亦、彼をすてた由子と関係しているのではないか。

由子をめぐる安彦の心の思いは複雑であり、犯人をかばう場合にも、自殺の理由として、父とアニヨメの関係を匂わしている。それは同時に犯人を告発している矛盾にみちた悲しい心であったと見られぬこともないのであった。

私は読み終えて、巨勢博士と大矢捜査主任の顔色をうかゞったが、彼らの顔から何を読みだすこともできなかった。

犯人は誰だろう。昭和十七年の場合に於ては、すくなくとも女が犯人でないことだけは確かであった。

「女と安彦氏のほかは、みんな怪しいというワケだね」