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こいのでんしちろう

恋の伝七郎

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,650 字 · 60 页

青空文庫

「本当ならどうする」「いいえ正直のはなしほんとうなら、そのお嬢さまのお眼は高うござんすよ、おんなにとってこういう殿御がいちばん実があって頼母しい方なんですもの、にくいことねえ」「そんな」と伝七郎は坐り直した、「いかんぞ村松、そんな根もないことを云って、こんな所でまでおれに恥をかかす法はないじゃないか」「おれは事実を云ってるんだ」銀之丞は相変らずまじめである、「友達としてありのままを云ってるんだ、おまえは考え違いをしている、相手がたいへんおまえに心を惹かれているという事実をおまえは知らない」「いったい」伝七郎はちょっと色をなした、「いったいそれは、誰のことを云うのかね」「ここで名を云っていいなら云おう、だがそんな必要はない筈だ、元気をだせ永井、高峰の花は登っていって折る人間のものだ、おまえは十万石の中老の子だぞ、相手とは身分が格段に違う、しっかりしろ伝七郎」「信じられない」伝七郎はがくりと頭を垂れた、「信じられないよ村松、あの人が少しでもおれのことなんぞ考えてくれるわけはない、そんなことがあっていいだろうか、そんな夢のようなことが」