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こいのでんしちろう

恋の伝七郎

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 29,650 字 · 60 页

青空文庫

男だと信じていたからだ。ところが実際はどうだ、出世したさに上役へ賄賂を贈り饗応をする、しかもそれが他人から借りた金だし、その金のために婚約をしながら、うまくおれを煽てて娘を押付け、自分はもっと身分の高い家とでも縁を結ぶ積りだったんだろう、おい銀之丞、貴様そんなちっぽけな、うす汚ないけちな奴だったのか、それでも武士だと云って歩けるのか」「云うだけ云ったら知らせろ」と、銀之丞は静かに提灯を傍わらの木の枝へぶら下げた、それからこちらへ向き直り、左手で刀の鍔元を握りながら、「村松銀之丞がちっぽけな男かどうか見せてやる」「おっ」伝七郎はとび退いた、「き、貴様、おれを斬る積りか」「おれには野心がある、しかもそれはもう手の届くところへ来ているんだ、邪魔になる者はどけてゆくより仕方がない」「よし!」伝七郎はぎゅっと唇を噛んだ、「よし、いいとも、これまでは貴様に頭が上らなかった、だが今はもう違うぞ、おれには貴様の正体がわかった、貴様のその汚れくさった性根で、嘘いつわりのないおれの正真正銘が斬れる道理はない、やってみろ銀之丞」伝七郎の声の尾を断ち切る